Endless Dream - from the aspect of FURIU - 2
「え、旅行?」
「そう、しかも明日から!休止期間中にね、国内をぐるりと回ってみたいんだって」
「ふうん……まあ、いいんじゃない?ここにいたってどうせすることなんてないんだから」
つまらなさそうにそう返してきたマリオに、フリウは思わず唇を尖らせて言いやった。
「だって、しばらく離れてたら感覚鈍っちゃうかもしれないし……それに、ひょっとして早めに狩り再開できるようになるかも」
「そんなことが今までにあった?こんな割のいい仕事、誰がやめてくれるっていうのよ」
それとも、なに?そう言ってずいとこちらに顔を寄せてきたマリオは、胡散臭そうに顔をしかめた。
「彼がいなくなったら困ることでもあるの?」
「な、ないよそんなの!あるわけないじゃん!」
不意をつかれてあたふたと怒鳴りつけ、相手の顔を見ないまま、フリウは駆け足で寝室を出て行った。
「しばらく、旅に出ようと思ってるんだ」
おずおずと口を開いたラズは、こちらの顔色を窺うようにそっと上目遣いにテーブルの仲間たちを見回した。
予想だにしていなかった申し出に、はたを目を開いて、フリウ。
「た、たび?」
「そう。旅。明日にでも」
「ずいぶん急な話だな。何かあったのか?」
訝しげに眉をひそめながら、サリオンが問いかける。ラズは椅子の上で大きく胸を反らしながら、さり気なく天井を仰ぎ見た。
「べつに、そういうわけじゃねーよ。なんつーか、そうだな、急にどっかに行きたくなるって誰にでもあるだろ?ちょうど休止期間だしさ、いっそのこと国内でもぐるーっと見て回りたいと思ってな」
「そりゃあ、次の狩りまでに戻ってきてくれるなら君の好きにしてくれて構わないけど……アスカラナンからの移民が増えて、物騒な地域が増えたと聞いてるよ。旅行をするならもうしばらく様子を見てからにしてもいいんじゃないか?」
「俺を誰だと思ってんだ?都会育ちのお前が、田舎もんの心配をするなんざ、十年早い」
ラズは茶化して言ってのけたが、サリオンはむっとした顔で彼のほうへと向き直った。
「僕だってハンターだ。いろんな地方を見てきた。仲間の心配をして何が悪い」
「ああ、そーだな、ハンターだろうさ。でもだからってそのお上品な育ちが田舎のパン屑で抜け切るわけじゃねーだろ。大きなお世話だ」
「なんだって?ああ、それほど言うなら好きにしろ。首都でも氷海でもどこへでも勝手に行け」
「サリオン!ラズも……どうしたの?おかしいよ、サリオンがラズのこと心配してるの、分かるはずなのに」
「それが余計なお世話だっていってんだよ。休止期間に俺がどこに行こうが俺の自由だろ」
「ああ、ノーエでもミブロでもどこにでも勝手に行け」
「サリオン!」
椅子を蹴散らして立ち上がったラズが、入り口付近で乱闘を繰り広げているマデューたちを叩きのめして酒場を立ち去るその後ろ姿を見てから、傍らのサリオンに視線を戻す。彼は手元の地図を見つめながら、深々とため息を吐いた。
「はぁ……僕も大人げないかな、いちいちラズの憎まれ口を真に受けるなんて」
「そんなこと……ラズだって、サリオンがそのこと言われるの好きじゃないって 分かってる、はずなのに」
そこを突くことは、よほどのことがなければ、ないはずなのに。
「……なに、怒ってたんだろ」
より一層激しくなったハンターたちの拳の応酬を他人事のように眺めて、フリウはひっそりと、そうつぶやいた。
(08.05.31)