これがいい」

あくまで、自然に。素直な子供のお願いを演出して。
「……え、」
案の定、ショーウィンドウの中を覗き込んだ彼はポカンと口を開け、何かの間違いではないかと言わんばかりにその値札を食い入るように見つめた。
「いやぁ……だから、うーん……もっと他にも、可愛い洋服っていうのはあるはずで、」
「でもあたしはこれがいいの」
「いや、うん、えぇと……うん、確かに可愛い、ものすごく可愛いよ、このスカート。だけどこれは……えー、あー、僕の懐からすると、非常に値が張るというか、だから、その……」
「何でも買ったげるって言ったじゃん」
「あー、うー、あああ……言ったね、うん、確かに言った」
「じゃあこれ」
「……いや、でもさすがにこれはちょっと」
「じゃあ何ならいいのよ」

聞かれて、彼は答えに窮したようだった。お得意の(という表現が彼の意に副うかは分からないが)困惑顔で、今にも泣き出しそうな笑い出しそうな複雑な表情を浮かべてみせる。フリウはにこりともせずに、目の前のガラスの奥に飾られたマネキンの服を見た。シックなブラウンのカーディガンに、落ち着いた白のスカート。ほんの少しだけフリルのついた。誕生日だから何でも好きなものを買ってあげるよと言われてショッピングに連れてこられたのはいいが、サリオンの「いやそれはちょっと……」を聞くのはすでに五回目になっていた。

「じゃあもうちゃんと制限してよ。いくらまでなら大丈夫なわけ?」
「えぇと……うー、あー……それじゃあ……」

心底面目ないといった顔付きで、彼がそっと折った指を下の方でちらつかせる。フリウはそれを見て、隠すことなく不服の声をあげた。

「それじゃあこのブーツだって買えないじゃん!そういうことはもっと早く言ってよ!」
「あー……その……うん、ごめん」
「もう!だったらこんなとこにいつまでもいたって仕方ないじゃん!」

本当は分かっていた。サリオンにこんな服を買う余裕がないってことくらい。そりゃあ確かにすごく可愛いけど、私だって本気でこのスカートが欲しいなんて思ってない。こういうのはきっと、私たち庶民には一生縁のない世界で。そもそも一年の大半を狩りに費やす身で、一体いつこんな服を着るというのか。
だけど    年に一度くらいは、とことん困らせてみたかった。子供だと言われても、甘えられる距離にいることを確かめたかったのだ。

ひとりでさっさと歩き出したフリウは、振り向いて後方のサリオンを見た。徹底的に打ちのめされた様子で、ショーウィンドウのガラスに凭れかかって項垂れている。大袈裟にため息をついて、フリウは足早に彼のもとへと戻った。彼の腕を掴み、情けない顔でこちらを向くサリオンに声をかける。

「もう!何でサリオンが泣いてるのよ!泣きたいのはあたしじゃない!」
「え、あ……ごめん」
「もう、しょうがないな!」

言って、彼の袖を掴んだ右手をそのままサリオンの手のひらまで下ろした。冷たい相手の左手を握って、驚く彼を引いて歩き出す。心地良い春の陽気が差す通りへと、駆け出すようにして飛び出した。

「じゃあ、ケーキ十個で手を打ってあげる!」
「……そんなに食べたら太るよ、フリウ」
「お嬢ちゃんはちょっとくらい太った方がいいってラズが言った!」
「あー……まぁ、言えてるかな」
「いいから行こう!この前雑誌で見た美味しいケーキ屋さんがあるんだって!」
「フリウ、そんなに急がなくてもケーキ屋さんは逃げないよ」
「だって早く食べたいじゃん!」

飛ぶように足を進めながら、遅れてついてくるサリオンを振り返る。繋いだ手が少し汗ばんだ彼の瞳が、困ったように微笑んで彼女を見つめ返していた。
特別な日に、高価な服やアクセサリーを買うことはできなくても。
目が合って、そして自然と笑い合える、そんな仲間のいること。
愛しいと思える気持ちを確かに感じられた    そんな春の、昼下がり。
Tudu'Uzu
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